山ラン仲間のJF9DJF氏が5年前の3月に辿っているルートにスルスノ頭までのピストンを追加した無謀な計画を実行に移した。彼は9時間もかからず周回してるのでこれにスルスノ頭までのピストン分5時間、さらに余裕を見て2時間を+αした16時間を想定した。春一番が吹き日中の気温は4月下旬くらいとの天気予報もあり、24時を出発時刻と定めて19時過ぎに奥四万トンネル入り口に車を停めた。23時に起きだして準備を始めるがヘッ電の電池が寿命切れで使い物にならず手持ちだけとなった。

  
栂ノ頭(1564m、四万)へは奥四万トンネル入り口前の摩耶ノ滝入口を入ることになる。沢沿いの遊歩道には雪が残ってるが、道型がはっきりしているので迷うことはない。ほどなく摩耶ノ滝への分岐となり、それを右手に分けると直ぐに右手から斜面に目が行ってしまった。しばし足を止め地形図とのニラメッコである。最初の5,60mさえ頑張ればその先は勾配が緩み、山頂に続く南尾根の1287P手前の小ピークに乗れそうにみえ、その先も尾根は通って見える。そういうイメージが湧き出すともう足は斜面に取り付いていた。急斜面を這い上がりだすと、そこには躊躇はなくただひたすらに登った。案の定50m余りで顕著な尾根筋となり1000m手前くらいから雪が続くようになってきたのでスノーシューに切り替えた。雪も締まっているので快適だ。尾根に上がる手前の急傾斜でアイゼンに取り換え、登り付いた尾根筋もそのまま歩いた。尾根筋は地形図の通り狭く、シャクナゲやツツジ類の灌木に雪が乗ってる状態である。ところが1287Pで一休みにザックを下すとサイドに差しておいたストックが一本無いのである。10分ぐらい前に灌木の間を抜けるときにひっかけた時だと探しに戻るとその場に落ちていた。見つかったから良いものの30分のロスである。この先もしばらくアイゼンで歩いたが次第に踏み抜きが多くなり鞍部付近で再びスノーシューに履き替えた。両手ストックのスポット式の手持ちライトは視界が定まらず、足元はほとんどブラインドでの歩きとなった。その中で最難関だったのは1268Pからの尾根筋と合流する手前の急傾斜だった。ストックを持つ両手をグーのままで雪に差し込み、スノーシューを雪面に打ち込んで攀じ登るように上がった。なんと尾根筋に上がると幾筋かのトレースがあるではないか。908P地点からのトレースであることはすぐに理解でき、自分のルート選択のミスに気付いたのだった。それからはトレースを追い山頂となったが、そこはただ立ち木に巻かれたテープに栂ノ頭と書いてあるだけの平らなピークだった。登山口から5時間2分を費やした。写真左は上りついた尾根筋、中央は1400前後でシャクナゲの乗った雪の上を越えていく、右は山頂

 
コシキノ頭(1610m、四万)はピラミダスな頂で、この一帯ではランドマーク的な山である。けれどそれはピークだけのことで、栂ノ頭からはほぼ平坦な広い雪原が続いていた。ちょうど中ほどの1537P近くまで来ると空の主役は月から太陽へと換わり手持ちライトから解放された。それとともにややペースを上げ、コシキノ頭の手前まで来ると鞍部では、すでに雪庇は崩落しその断面を見せていた。残った雪庇を遠巻きに行くといよいよ最後の急勾配である。先行者が手こずったであろう荒れた雪面が、その下の笹と一緒に凍り付き足掛かりとなってくれたので、スノーシューのまま難なくピークとなった。比較的新しい黄色い山名板が下がっていて、よく来たなという感じで迎えてくれた。栂ノ頭から1時間12分。写真左は1537P近くから東側を見たところ、中央はコシキノ頭手前の鞍部付近から、右は山頂で山名板の後ろに見えるのは栂ノ頭

   
スルスノ頭(1721m、野反湖)へは1644Pから尾根筋を北上することになるが、コシキノ頭を西側へ下ることが頭にあり白紙だった。どう見ても急斜面であり、先行していたトレースもここで途切れていたが、少し北側に回り込むように下ると以外にもスノーシューのままでも降りることができた。しばらくは緩やかな登りとなり少しばかり勾配を増すとスルスノ頭への分岐となる1644Pとなった。この時点で7時を過ぎており、これまでのペースだとかなりきついと感じたが、9時を到達のタイムリミットとして向かうことにした。無垢の雪原を自分のトレースだけを残して歩くのはとても気分のいいものである。もちろんアップダウンはあるものの、比較的苦労するであると思われたピーク手前の100m余りの高度差も難なくこなした。ただ後ろを振り返るとコシキノ頭は小さなランドマークと化してしまっていた。こんな時いつも決まって思うのは「どうしてこんな遊びに取りつかれてしまったのだろう」なのである。直線で残り300m、東側に張り出した雪庇に注意しながら左巻くように緩やかに上るとスルスノ頭となった。青いM大のプレートだろうか、錆びついてペイントは落ちる寸前でかろうじてスルスと読めるだけだった。木立の間からは西側に上ノ間山~忠次郎山の山並みを、北東方向には谷川連峰を見ることができた。1644Pから1時間30分。1644Pへの戻りは1時間18分。写真左は上り来たコシキノ頭で急傾斜の西側が見える、中央はスルスノ頭手前の急登尾根筋、右はM大の山板

    
木戸山(1732m、野反湖)へは1644Pへピストンし軽快な歩きは続いたが、1611P先の大きな斜面を持つピークへの登りあたりから次第に足が重くなり始めてきた。原因はもちろん疲労であるが、それに輪をかけて来るのが気温の上昇で腐りだした雪でスノーシューを余計重くしてくる。大きなピークは左へ巻きどうにかクリアしたが、1742P手前の大きく口を開けた雪庇を避けながらの登りはきつく踏み抜くことも多くなり、膝でステップを切りそこにスノーシューを乗せるように上がった。ただ苦労して上りあげた先の景色は最高で本日一の眺めとなった。登り来た尾根々々の先に仙ノ倉山~谷川連峰、さらに北には白砂山~上ノ間山の山並みが広がっていた。ここからは広い尾根を下り、幾分きつい斜面を登り返し南から西側へ巻くように緩やかに行くと山頂となった。ここではすかいさん製の山名板が迎えてくれた。1644Pから2時間10分。写真左は戻りにみたコシキノ頭~栂ノ頭、2番目は1644P先から見た木戸山方向、3番目は1742Pから見た登り来た尾根筋とその後方の仙ノ倉山~谷川連峰、4番目は1742Pから見た木戸山で右側がピーク、右端は木戸山山頂


新行山(1171m、四万)へは長い尾根筋をただひたすら下るだけなのだが、ここが一番堪えた。もちろん登り返しも一部はあるが、腐った雪面の下りはとにかく神経を使う。高度を下げるにしたがって、腐りはどんどん醜くなりスノーシューに纏わりついてくる。ツボ足だと踏み抜きの連続となり歩くところではないことは目に見えているので辛抱して下った。ただそれでも参るのは両足ごと踏み抜くときで、こんな時は来たことを後悔する瞬間でもある。それなのにやっとのこと辿り着いた新行山には何もない。ある筈の三角点標柱も雪の下で、ただ何の変哲もない小さな盛り上がりをデジカメに納め早々に下山した。木戸山から2時間5分。写真左は134Pとそこから右へ続く新行山への尾根筋でその後方に不納山が見える、中央は新行山山頂

下山ルートはテープの下がる南とし、900付近でスノーシューを外し早足で下った。結局降り立った先は新湯川で、靴のまま強引に渡渉した。車道へ出てからの車への戻りはトンネルを2つ抜けるもので足取りは重く、16時40分にへとへととなり辿り着いた。新行山から1時間34分。計16時間53分の山行は幕を閉じた。この後、四万温泉・清流の湯と中之条駅近くのラーメン屋さんで疲れと空腹をいつものように癒した。が、結局家までは戻り切れず、高速のPAで10時間近く爆睡することになり、目が覚めたのは次の日の朝5時だった。