熊倉山を下山した後は、小鹿野町の猪狩山に向かった。林道御岳山線を2.5km程行くと猪狩神社からの登山道と出会うのでそこを取り付け地点と決めた。予定では猪狩山の北にある鞍掛山も尾根伝いにピストンし併せてゲットしようとするものだが、地形図を見ると鞍掛山手前の鞍部前後の等高線が極端に狭く、難航することが容易に想像できた。ということで7mmロープ40mを持参することにした。

猪狩山(822m、三峰)へは林道から「猪狩山を経て御嶽山へ」と書かれた標識に従って取り付いた。一気に200mを上げる急勾配は、30度を超える暑さと背負った水とロープの重さもあり休み休みとなる。額からは玉のような汗がメガネに落ちてくる。やっとのこと40分かけて登り上げたピークには2つの祠があった。ここは猪狩神社の奥宮(標識などから判断すると行政ではここを猪狩山としているらしい)で、本物の山頂はこの400m先のピークであり、尾根筋を軽快に歩いた。大岩を右に巻いて急勾配を上がると本物の山頂となった。猪狩山822mと書かれた小さな山名板も確かに下がっていた。林道登山口から丁度1時間。写真左は猪狩神社奥宮、中央は猪狩山山頂

鞍掛山(716m、三峰)へはそのまま御岳山への踏み跡を行き、二つ目の北へ向かう尾根筋に入った。地形図の通り尾根筋は通っているので迷うことは無い。途中の大岩は右側の踏み跡を巻いて難なく通過し、さらにゆっくりと下って行くと木立の間から目指す鞍掛山が見え出してくる。ピーク近づくほどに下りの勾配は増し、立ち木を手掛かりにザレた足元を滑るように50mばかりを下げて鞍部となった。こりゃー帰りが面倒だななどと思うも間もなく、目の前にはほぼ垂直の岩壁が現れた。遠目でもかなりきつそうだったが、直下に来るとまるで垂直の壁のように見える。辺りを視線で探るも右も左もさらに切れ落ちていて到底足を踏み入れる場所もない。ふと見上げると3本の蔓がよじった縄のようになってかなり上から垂れ下がっている。戻りはロープがあるのでどうにかなるだろうと、蔓を手掛かりに腕力に任せて5m余りの岩壁をどうにかクリアした。それからも足元をしっかり確保しながら灌木を繋ぐように急勾配の岩場を必死で攀じ登り、最後の50m余りの壁を越えた。山頂には小さな祠が2つあり、北側の立木には小さな山名版が下がっていた。そこには確かに鞍掛山716mと書かれていた。猪狩山からはたったの50分だったが、今までにない長い緊張の50分間だった。山頂で山ランの儀式を済ませると、少し前から聞こえ始めていた雷の音が段々大きくなり、登り来た猪狩山の方向も曇りだしている。祠も北を向いてるし、北側の尾根筋には薄いが踏み跡も確認できる。地形図を見ると勾配はきついが北西に向かう尾根筋は下れないことはないと判断した。ピストンはロープを使い懸垂下降で降りれるが鞍部からの上り返しも半端ではなく、何より雷が近づいているので豪雨となれば山中での立ち往生は必至である。帰りは遅くなっても、とりあえず安全地帯まで下りることが先決と迷うことなく北西の尾根筋を下り始めた。案の定、尾根筋の勾配は急であったが、近づく雷鳴と競走するように下り、最後は杉の植林地を駆け下りた。いつの間にか落ち出した雨は次第に大粒となり、やっとのことで駆け込んだ廃屋の軒下に入るや否や豪雨となった。頭上の雷鳴は約30分で足早に去り、疲れ切った足を引きづりながら車道をとぼとぼ歩き、猪狩神社からの登山道を辿ってクルマに戻った。雨宿りを入れて5時間10分の大周回となったが、思い出に残る山行になるだろう。写真左は猪狩山手前暗部絵の急な下りの頭、中央は鞍部から山頂直下を見上げたところ、右は鞍掛山山頂で後方が猪狩山